近藤紘一『サイゴンのいちばん長い日』

サイゴンのいちばん長い日 (文春文庫 (269‐3))

サイゴンのいちばん長い日 (文春文庫 (269‐3))

窓を揺るがす爆発音、着弾と同時に盛り上がる巨大な炎の入道雲、必死の形相で脱出ヘリに殺到する群衆、そして戦車を先頭に波のように進攻してくる北・革命政府軍兵士……。一国の首都サイゴン陥落前後の混乱をベトナム人を妻とし民衆と生活を共にした新聞記者が自らの目と耳と肌で克明に記録した迫真のルポ。(裏表紙より)

こういう戦争に関するルポルタージュには「悲惨」「壮絶」といった形容がつきもので、上に引用した紹介文もそうした色合いを出そうと「腐心」しているのが見て取れます。しかし本書では悲惨さに対する過剰な描写や感情移入はなく、あくまで人々の生の姿を描くことに終始しています。ベトナム人の妻を持ち、ただの特派員以上にサイゴンに深くのめり込んでいた作者だからこそ書けた作品だと思います。上述のような劇的なものを求める人には物足りないかも知れません。