今日の言霊−日本代表に寄せて・2006-06-18

 日本に帰ってしばらくして内藤に会った。弁解するように内藤はいった。
《たった五〇〇ドルのファイト・マネーで、ブンブンぶっ飛ぶわけにはいかなかったんだよ。命がかかってんだからね》
 その時、はじめてぼくは深い徒労感に襲われた。
《いつブンブンぶっ飛ぶの?》
《いつか、そういう試合ができるとき、いつか……》
 以前、ぼくはこんな風にいったことがある。人間には"燃えつきる"人間とそうでない人間の二つのタイプがある、と。
 しかし、もっと正確にいわなくてはならぬ。人間は、燃えつきる人間と、そうでない人間と、いつか燃えつきたいと望みつづける人間の、三つのタイプがあるのだ、と。
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