本村凌二『地中海世界とローマ帝国』

地中海世界とローマ帝国 (興亡の世界史)

地中海世界とローマ帝国 (興亡の世界史)

斬新というわけではなく、非常に手堅い概説書という印象です。文章は簡潔、テンポ良く読めました。
ローマ帝国におけるキリスト教国教化のようなドラスティックな変革は、中国思想・宗教においては該当例が見当たらないように思えます*1。そういった意味から国教化の説明には期待していたのですが…、うーん、納得しきったとは言えないw
「ここには、人間の経験のすべてがある」というのが帯のキャッチコピーですが、古代史に限らず西洋史のものを読んでいると、歴史(あるいは歴史叙述)における「人」の占める位置が、中国史におけるそれとだいぶ違うなと感じます。「人」を中心に据えるその書き方に、違いだけでなく若干の違和感を覚えるのは、分野の違いによるものなのか、それとも私が「まず制度・システムありき」という考えに立脚しているからなのか。
おしまいは、古代末期社会論についての研究動向(というほど専門的・詳細なものではない)が紹介されていますが、時代区分法を「拝借」して論争を繰り広げてきた中国史研究ではすでにそうした区分自体が意味を持たなくなっています。「本家はまだそんなことやっているのか」と言っちゃあ怒られるかな。逆に「オマエもいい加減『王朝史』止めろ」と言われそうだw

*1:強いて言えば漢代における儒家勢力の伸長でしょうが、それとて世界観をひっくり返すような変革であったとは思えません。むしろ朱子学かなぁ。