57年ぶり衆議院再可決

以下の三点を中心にスクラップ。

  1. 再可決の是非
  2. 法律の内容の是非
  3. 海自インド洋派遣の是非
  • 社説:新テロ法再可決 今回は非常手段と心得よ(毎日)

 私たちは、この国際協力活動に日本も関与すべきであり、洋上給油活動は選択肢の一つと考えてきた。対テロ包囲網の一翼を担うことで、米国を含む多国間の相互依存関係が維持され、日本の安全保障に寄与するというのがその理由だ。

 ただし、政府の新テロ法には重大な欠陥があった。民主党の賛成が得られないことを見越して、旧法にあった「国会承認」規定を削除した点だ。

 従来の安全保障関係法は、実力部隊である自衛隊の海外派遣には、衆参両院の承認で二重にチェックする考え方を取り入れていた。結果的に新テロ法は、衆院の意思だけで海自を派遣することになった。極めて残念である。

 民主党の一部には、国会承認の復活を求める意見があった。このため、私たちは民主党が現実路線に立ち返り、国会承認をめぐって与党との修正協議に入ることを期待した。

 しかし、民主党は最終盤まで対案も出さず、時間稼ぎとしか思えない国会戦術に終始した。防衛省汚職を受けて「油より膿(うみ)を出せ」とも訴えたが、次元の異なる問題に深入りし過ぎたことが、同党のスタンスをあいまいにした。

 国益にかかわる課題が付託されているのに、まったく議論がかみ合わず、合意形成のめども立たない。この事態に至った限り、衆院3分の2による新テロ法の再可決は、やむを得ない。

 与党が現有している3分の2以上の勢力は、小泉内閣時代に郵政解散という特殊なシングルイシュー選挙によってもたらされたものだ。その数の力に、2代後の福田内閣が頼ることは、腑(ふ)に落ちないという意見もある。政府・与党は非常手段の発動であることを心すべきだ。(一部引用)

  • 給油新法成立―禍根を残す自衛隊再派遣(朝日)

 福田首相は「これで国際責任が果たされる」とひと安心だろう。だが、日本の外交や自衛隊の将来を考えると、禍根を残す決着だったと言わねばならない。

 まず、これまでの法律にあった国会承認の規定が消えてしまったことだ。自衛隊の動かし方は国会が厳重にチェックする。これが文民統制の原則なのに、おろそかになる危険がある。

 派遣期限は1年間で、活動内容も給油・給水に絞った法案だから、これを可決すること自体が国会承認に等しい。そう政府は言う。でも、国会が重ねて吟味する意味は大きいはずだ。

 そもそも、参院で多数を失い、承認を得られそうにないから国会承認の規定をはずしたのではないのか。国会をバイパスする前例にならないか心配だ。
(中略)
 当初、政府・与党内には、採決で「3分の2」を使うならば、世論の賛成が6割ぐらいはほしいという声があった。だが、給油新法の支持は低迷し、最終局面でも反対が賛成を上回っていた。

 自民党の重鎮だった故後藤田正晴氏は、第1次湾岸戦争の際、当時の海部内閣が法律ではなく政令自衛隊機を海外派遣できるようにしたことを批判し、のちにこう回想した。

 「野党が『うん』と言わず、日本はできないとなったら、議会制民主主義のもとで、国民が反対しているものをやれますか、と外に向かって言えばいい」

 「やれないときはそれでいい。権道を歩くのではなく正道を歩むべきである」(『支える動かす 私の履歴書』)

 そのときも、参院の主導権を野党に握られたねじれの時代だった。今回は法律に基づく派遣なので構図は異なるが、自衛隊を海外に出す際に国民の合意を重んじる考え方は、今も通用するものだ

 戦前、軍隊が国を誤り、多大な犠牲を国民や周辺諸国に引き起こした苦い経験を踏まえた知恵だろう。

 私たちも、テロをなくすための活動に日本も協力すべきだと考える。インド洋での給油も選択肢のひとつかもしれない。これを頭から「違憲」と決めつける小沢民主党代表の論法は乱暴にすぎる。

 ただ、給油活動はすでに6年になる。「テロとの戦い」は各地で行き詰まり、犠牲も続く。このやり方を続けるべきなのか、ほかの方法はあるのか。立ち止まって考えるべき時ではないのか。(一部引用)

  • 新テロ法成立 政治の再生へどう踏み出すか 民主党も責任ある対応を(讀賣

 政府が法案を提出した昨年10月17日以降、会期を2度延長し、越年した末の成立である。旧テロ特措法の期限切れで昨年11月1日以来、中断している給油活動は2月にも再開される。それでも中断期間は、4か月近くにも及ぶ。

 歴史的な構造変化が進む国際社会にあって、日本が確固たる地歩を占め、対外的な発言力を確保することは、国益上、極めて重要だ。それには、日本自身が、必要な役割と責任をしっかりと果たさねばならない

 一時的とはいえ、アフガニスタン内外で40か国以上が参加する「テロとの戦い」から離脱し、国際社会の一員としての責任を放棄したことは、日本への信頼感を損ねた。そのマイナスは、決して小さくはあるまい。

 国家としての意思決定も、必要な政策の遂行も迅速にできない―。海外から見れば、日本は、内向きの姿勢に終始し、何の国家戦略もなく漂流する国と映ったことだろう。

 その責任の多くは、参院第1党として重要政策の推進に責任の一端を負っているはずの民主党にある。

 民主党は、一貫して新テロ特措法案の審議引き延ばしと採決先送りを追求していた。その揚げ句に、再延長国会終盤で見せた迷走は、民主党の無責任な姿勢を示して象徴的である。

 民主党は当初、参院で新テロ特措法案を採決せず、継続審議にするよう主張したが、共産、社民両党などの反対で、結局、新テロ特措法案を否決した。

 民主党には、継続審議にしたにもかかわらず、自民、公明両与党が衆院で3分の2以上の多数で再可決すれば、与党の強引さを印象づけることができる、という計算があったという。政局の思惑を優先した小手先の対応である

 法案に反対なら、早い段階で否決し、参院としての意思を示すべきだった。それをしなかったのは、結果として、参院無用論を助長しただけだったのではないか。採決を主張した共産、社民両党などの方が、よほど筋が通っている。(一部引用)

  • 新テロ法成立 国際社会と共同歩調を 国益の実現に必要な再可決(産経)

 今国会の最重要法案である新テロ対策特別措置法が成立した。それに先立つ参院本会議では野党の反対多数で否決されたものの、与党は憲法規定に基づき、衆院本会議で3分の2以上の賛成多数で再可決した。参院で否決された法案の再可決は57年ぶりだが、国益を実現するために憲法で定められた手続きを取ることに問題はない

 民主党は、新テロ法成立に対し、当初検討していた首相問責決議案の提出を見送った。国の安全保障を政争の具にすることは問題であり、そのことへの批判が党内にもあったからだ。

 再議決は、来年度予算案に関連して揮発油税暫定税率を維持するための租税特措法改正案なども対象になろう。与野党とも国民生活を混乱させる事態を招かないことを優先して知恵をしぼるべきである

 民主党は政府・与党を早期の衆院解散・総選挙に追い込み、政権を奪取することを基本戦略にしている。だが国民のために必要な法案を成立させることこそが、政権を担える政党としての信を高めることにつながる。

 政府は近く、海自派遣の実施計画を閣議決定、月内に海自補給艦などを出航させ、2月中旬にもインド洋での給油支援を再開させる方針だ。昨年11月2日にテロ対策特別措置法が失効し、海自艦が撤収してから、再開までに約3カ月要する。この間、日本の国際的信用が大きく傷つき、国益が失われたことを忘れてはなるまい。

 石破茂防衛相が「(給油活動中断で)パキスタン艦船は活動時間が4割減った。監視活動が密から疎になっている」と語ったように、海自の撤収は多国籍海軍の海上トロールなどにダメージを与えた。喜んだのは、麻薬を積んで武器を買って戻るテロリストたちなのである。

 ペルシャ湾からインド洋にいたる多国籍海軍が守る海域は、中東に原油の9割を依存する日本にとって海上交通路(シーレーン)と重なる。

 ところが反テロ国際行動から脱落したことで、海自は海上テロなどの情報を共有できなくなってしまった。日本のタンカーは危うさの中に放置されていたといえる。多国籍海軍への給油支援は日本の死活問題でもある。

 国際社会は給油再開を歓迎しているが、それにとどまってはならない。日本は反テロ国際共同行動を担う能力と責務を担っている。日本が信頼できる国かどうかが試されてもいよう

 新テロ法の問題点は期限を1年間にしたことだ。海自の活動を給油・給水に限定してもいる。これでは国際社会の期待に応える活動はできない。期限切れが近づけば、また政争を繰り返そうというのだろうか。
 恒久法制定は待ったなしだ。海外で新たな事態が起きるたびに特別措置法を定めて自衛隊を派遣する現状を改め、国際平和協力をより迅速に行わねばならない。(一部引用)

  • 与野党は「恒久法」合意へ議論深めよ(日経)

 海上自衛隊によるインド洋での給油活動再開のための法律が憲法59条に基づく衆院での3分の2以上による再可決の結果、成立した。再可決は当然ではあるが、異例である。新給油法には1年の期限がある。与野党自衛隊の国際協力活動に関する、いわゆる恒久法をめぐる合意を1年以内につくる必要がある。
(中略)
 私たちは自衛隊の国際協力活動の根拠となる法律の制定をかねて求めてきた。活動内容はインド洋での補給のような、いわゆる後方支援である。後方支援が武力の行使と一体化するとの内閣法制局の見解の見直しを含む、集団的自衛権の政府解釈の変更が必要とも考えてきた

 それは小泉政権時代の2002年に福田官房長官が中心になって組織した国際平和協力懇談会(明石康座長)の報告の問題意識とも大筋で一致する。ただし自衛隊の活動の条件を国連決議に限定すれば、例えば、ミンダナオ国際監視団のように、和平交渉の第三国仲介者がいて国連での議論が不要だった事例には対応できない。

 石破茂現防衛相が中心になって自民党防衛政策検討小委員会が06年にまとめた「国際平和協力法」試案では自衛隊の参加の要件を国連決議、国際機関の要請のほか、紛争当事者の合意に基づく要請、国連加盟国その他の国の要請に基づく国際協調活動としている。国会での承認を義務づければ、参加要件は柔軟であっても特に支障はない

 安全保障政策は本来、超党派の合意を前提に進むのが望ましい。与野党間での議論の深まりを期待する。その点で小沢氏が再可決のための衆院本会議を途中退席し、棄権したのは、野党第一党党首の安全保障政策に対する関心の低さを見せつける結果になり、遺憾である