ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』

ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える

著者は、脳の発達障害とされている「サヴァン症候群」を抱えながら、外国語学習プログラムの制作・運営をしているイギリス人です。
発達障害は世間の大多数の人と異なる脳の発達をもたらすもので、サヴァン症候群の場合は、記憶・計算・芸術の方面で優れた才能を発揮するようです。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたレイモンド・バビットは、キム・ピークという実在のサヴァン症候群の人をモデルにしています。彼と同様にダニエルも数字・記憶に関して人より優れた才能を持ち、本書の表題のように数字に色・形が伴っているという感覚を有しているようです。
また、ダニエルは他人とのコミュニケーションに困難を持つ「アスペルガー症候群」でもあり、幼少期には周囲との関係に非常に苦労しています。本書はそんな彼が、いかにしてハンディを克服し自立への道を歩んでいったかを綴った手記です。
表現は簡潔、我々が読むと大変な事態であったと思われることもあくまで穏やかに書かれています。実際は大変だったのでしょうけども。非常に読みやすかった。円周率の暗唱でヨーロッパ記録を打ち立てる場面が一番グッと来ました。彼に密着したTVドキュメンタリー「ブレインマン」は日本でも放送されたようです。見たかった。
発達障害に対する偏見・誤解を解く、あるいは同様の障害を抱える人々に勇気を与える、素晴らしい本だと思います。と同時に、発達障害云々を抜きにして一人の若者が自分を見つめ、自分の足で人生を歩んでいく、そんな半生記としての魅力も持ち合わせています。100%ORANGEの装画も良いです。

若い人たちには、ひとりぼっちではないこと、だれもが幸せで実りある人生をおくれることを知ってほしい。そして自信を持って生きていってほしい。ぼくがその生きた見本なのだから。(P.24)