スティーヴン・オカザキ『ヒロシマナガサキ』

スティーヴン・オカザキヒロシマナガサキ(公式サイト):★★★★★
日系アメリカ人の監督によるドキュメンタリー作品。


【注意】ここから先は内容に触れています。



宣伝文句や前評判では、「原爆に対する日米の認識のギャップにもスポットを当てている」という点が強調されていたんですが、言うほどそこが際立つ作りにはなっていなかったです。それなら原爆製造・投下に関わった人々だけでなく、現在のアメリカ人の認識に迫る作りにすべきだったと思います。
しかし、「アメリカ(人)は原爆のことを分かっていない」というのもまたちょっとおかしな思考停止だな、とも思います。冒頭で8月6日が何の日か知らない「無知」な日本の若者が何人も出てきますが、日本がそんな国になってしまったこともまた事実。
見ていて一番複雑だったのは、「原爆乙女」と称して被爆女性をアメリカに招き無償で皮膚移植手術を受けさせる事業があって、それを紹介するアメリカの番組が流される場面。一瞬、その偽善的かつ自己中心的な作りに言いようのない嫌悪感を覚え、たった25人しか救えなくて何が慈善事業だ、と腹が立ちました。しかし一方でその事業で移植手術を受けた女性が笑顔とともにアメリカでの思い出を語るのを聞くと、こうした憤りも所詮は他人のつまらない同情でしかないのかな、とも思います。
被爆者の方々の証言、特に原爆投下時のそれには圧倒的な迫力があります。それは、本来なら死んでいるはずの命を生かされ、なおかつその後の様々な苦しみ(肉親の喪失・治療の苦痛・周囲からの蔑視・子孫が後遺症を受け継いでしまうという懸念)を耐え抜いて、「死ぬ勇気」ではなく「生きる勇気」(この二つの言葉は劇中に登場します)を選んだ彼らの覚悟に起因するのでしょう。
全編が悲惨なエピソードで埋め尽くされていますが、涙を流すヒマがあったら目を見開き耳の穴ををかっぽじって彼らの姿と言葉を焼き付けるべきです。