沢木耕太郎『246』

246

246

世田谷の弦巻という町に住み、三軒茶屋に仕事場を持つ私は、都心に向かうのに常にこの246を使う。タクシーやバスはもちろんのこと、地下鉄に乗るときでさえ、246に沿っていくことになる。いまの私にとっては、この246が「うち」から「そと」の世界につづく唯一最大の道であるのだ。(本文より)

三十代最後の一年、『深夜特急』第一便・第二便や『馬車は走る』の刊行、「ハチヤさん」との旅、『血の味』の執筆、『キャパ』の翻訳と、のちに極めて重要な意味を持つこれらの仕事を抱えた筆者の日記風エッセイ。これだけ多くの仕事をこなしているのですから悲壮感とか疲労とか、そうしたものがもっと文章に顕著に現れてきても良さそうなものですが、あくまで爽やか、軽やかです。軽薄という意味ではなくて。
初出は『SWITCH』ということで本書も同じサイズ、すなわちB5版。大きいので持ち歩いて読むのには不便。でも、中身を考えても、どこか出先で読むよりも家で静かに読むのに適した一冊だと思います。とりわけ娘がいる男性は必ず家で読むように(笑)。そのあと、娘と遊びたくなることうけあい。「○○のオハナシ!」、とても微笑ましいです。