牧原憲夫『民権と憲法 シリーズ日本近現代史②』

民権と憲法―シリーズ日本近現代史〈2〉 (岩波新書)

民権と憲法―シリーズ日本近現代史〈2〉 (岩波新書)

一八七七(明治一〇)年の西南戦争終結後、議会開設の要求が強まり、自由民権運動が全国各地でまきおこった。そして一八八九(明治二二)年、大日本帝国憲法が発布され、翌一八九〇年には帝国議会が開かれる。国民国家と競争社会が確立した現代の原点ともいえる時代を、政府・民権派・民衆の三極対立という新しい視点で描きだす。(カバー紹介文より)

自由民権運動憲法制定にいたる十数年を、政府・民権派・民衆の三極構造と捉え、制度によって「民衆」が「国民」へと変質していく過程を描いた書。あわせて、私的財産所有概念の登場という近代化のメルクマールの一つがやがて「文明・未開」という西欧的思考と相俟って無主・未開の地を取り込む「植民地化」への動きを生む過程も詳述されています。
おりしもこんなニュースが報じられていますが、これもこの時期に形成された「良妻賢母」、とりわけ「賢母」をよしとする考えの残滓ですね。極端な言い方をすれば「安易な離婚をするなと子どもをだしにして脅している」わけです、法律が。
内地植民地化の過程が簡略に過ぎ、筆者自身も「あとがき」で述べているように風俗・文化などの社会史に関する叙述も欲しかったところですが、新書という制限下ではやむを得ないところでしょう。そうした制約を踏まえれば、要所要所にちりばめられている現代社会に通じる要素の指摘も含め、示唆に富む一冊と言えます。