井上靖『氷壁』

氷壁 (新潮文庫)

氷壁 (新潮文庫)

穂高の難所に挑んだ小坂乙彦は、切れる筈のないザイルが切れて墜死する。小坂と同行し、遭難の真因をつきとめようとする魚津恭太は、自殺説も含め数々の臆測と戦いながら、小坂の恋人であった美貌の人妻八代美那子への思慕を胸に、死の単独行を開始する……。完璧な構成のもとに雄大な自然と都会の雑踏を照応させつつ、恋愛と男同士の友情をドラマチックに展開させた長編小説。(裏表紙より)

今年の初めに放送されたNHKドラマ『氷壁』の原作となった一冊。ドラマを見てから原作を読んだわけですが、あらためて思い返してみると、ドラマは設定を現代に変えたものの、原作の全体的な流れやキャラクター設定などのディテールも上手く再現できていたなと思います。特に魚津の上司で、魚津に厳しくも一定の理解を示す常盤大作と、伊武雅刀が演じた奥寺(ドラマ『氷壁』で魚津に相当する役)の上司はイメージがピッタリです。


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かなり古い小説(1957年刊行)のため、キャラクターに面倒くさい性格設定などがなく、織り込まれているテーマは多岐に渉っていながらも筋立てはシンプルで、厚さの割にはすんなり読めました。上記の裏表紙紹介文に挙げられたものに加えて「若さと老い」というものも物語のテーマになっているのかな、と、最後の場面を読んで思いました。
1955年に実際に起きた「ナイロンザイル切断事件」をモデルにしており、たびたびドラマ化され、映画にもなっているようです。