トニー・パーカー『殺人者たちの午後』

殺人者たちの午後

殺人者たちの午後

殺人犯の、主に殺人を犯した後の生き方に焦点を当て、インタビューを中心に構成されたノンフィクション。
死刑制度のないイギリスでは、殺人を犯した者には終身刑が科せられ、犯罪の程度・更正具合によって仮釈放が認められる。原題“Life after Life”は、“Life”(終身刑)を科せられたあとの“life”(人生)という意味。
殺人は、「最初から特定の相手を殺すことを目的として、計画を立て、実行に移す」という殺人と、「殺すつもりはなかったが、偶発的に相手を死に至らしめる」という殺人に大別できると思います。ほかにも「自分が死にたいから不特定多数の相手を殺して死刑を要求する」というものもありますが、これは広義的には前者に含めてよいでしょう。
本書では後者、「殺すつもりはなかった」という殺人者が多く登場します。彼らの語りはそれこそ千差万別で、近しい人に手をかけてしまったことにもだえ苦しむ者から、本当に人を殺したのだろうかと思わせるほどあっけらかんと今後の人生の希望を語る者までさまざまです。
ただ一つ共通しているのは、人を殺すに至った直接的なきっかけは本当に些細なものだ、ということです。
人間ならば一度や二度は、誰かのことを殺してやりたいほど憎むという経験をしたことがあるでしょう(と私は勝手に思っているのですが)。でも、「殺してやりたいと思う」ことと「殺してしまう」ことの間にはとてつもなく大きな違いがある、と私は信じ込んできました。この本を読んで、それは「自分は違う」ということを自分に納得させたいだけなのかも知れない、と思い始めています。
もう一つ、というか、本書の主題である「犯罪者のその後」について、『yom yom』でちょうどこのことをテーマにした乃南アサの小説が連載されています。別に犯罪じゃなくても、関わる人の過去ってのをどう捉えるかは、私自身はそんなに深刻に受け止めていなくて、だからその小説も本書も、作中の人物にどちらかと言えば同情的に読みました。もっとも現実にそういう事態が出来すれば変わるのかも知れませんが。
文体は単調、というのではなく淡々としていてかえって迫力を増しているという印象です。