菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』

儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間 (講談社選書メチエ)

儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間 (講談社選書メチエ)

旅日記を書くためのまとまった時間がないのでやっつけレビュー。
西洋思想から研究を始め、比較宗教史を専門とする筆者が、儒教・仏教・道教が並存する東アジアの思想構造を分析する一冊。
東アジアの「宗教」を、「シンクレティズム(ごたまぜ・習合)」をキーワードに、三教相互の刺激・影響があったと説明するのはいいんだけれど、どうもこの人の頭の中には三教のうち儒教だけが不変性を強く備えた思想だという考えがあるらしい。

 道教は現世での幸福に執着する。仏教は現世への執着を絶つべしという。
 かほどに道教と仏教はあいいれない理想をかかげている。そのはずなのに両者は中国人の生活のなかで、とりわけ奥底でひとつにつながっている。表と裏をなしている。それもこれもにらみつけながら儒教がデンと居すわって、二十一世紀になっても立ち去る気配がない。
 儒仏道がまるで太極図を三つ巴にしたようにからみあっている。境目では絵の具がじわじわしみあって輪郭線はにじんでいる。(p.196-197)

まざりあっているとは言っているものの、本文の記述全体を俯瞰すると、儒→仏や道→仏といった方向の影響は詳述されているが、仏・道→儒の視点は欠けている。この視点が少しでもあれば宋明理学に対する言及がすっ飛ばされるわけないのに。
「東アジア」が何を指しているのか、いま中国の話をしているのか、それとも日本の話をしているのかが読者に伝わりづらい構成もどうかと思う。