小田中直樹『歴史学ってなんだ?』
- 作者: 小田中直樹
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: 新書
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「歴史学の「れ」の字も知らない人を想定読者」とした歴史にかかわる「適切な入門書」(「あとがき」より)として書かれていますが、なかなかどうして、戦後日本の歴史学の展開など勘所をきちんと押さえた良書です。
あえて難癖。「史実はわかるか」という本書の一つ目の命題について、構造主義の立場から突きつけられた「言語を用いる以上、正しい認識なんてあり得ない」という難題から脱却するヒントとして持ち出された「コミュニケーショナルな認識」というのは、イマイチ分かったような分からないような。
人間は「認識の正しさをめぐる判断を(ある程度)共有する力をもって」いて、「「この認識は、絶対的な根拠はないかもしれないけれど、わりと正しいんじゃないか」という意見を他者と共有でき」、こうして構築される認識を「コミュニケーショナルな認識」と筆者は呼んでいます(p.79)。そして、コミュニケーションが成立しているか否かを常に確認でき、意見が一致しなくても問題が生じないような環境作りが必要だというのです。
うーん、どうでしょうか。後半部分の「環境作り」は具体的にどういうことを言いたいのかボクにはよく分かりませんでした。前半の「共有する力」とて、どこまで信頼を置いてよいものか分かりません。「歴史学は社会の役に立つか」という二つ目の命題について論じた後半においていみじくも筆者が指摘しているように「皇国史観」が何となく社会に共有されて日本がおかしな方向に行っちゃったのは、それこそ「共有する力」のなせる業なわけだし。ちょっと予定調和的な感じがします。
その点を差し引いても良い本です。初心に帰るためにぱらぱらっとめくるには手頃な分量だし。
もちろん、情熱やメッセージさえあればオーケーというわけではありませんが、情熱が込められていない歴史像は、たいていはあまりおもしろくないものです。(p.180)