羽田正『東インド会社とアジアの海』

東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

17・18世紀のインド洋から東シナ海に至る海域世界を、東インド会社の活動を中心に描いた一冊。東インド会社を侵略の尖兵というステロタイプで捉えるのではなく、アジア諸地域それぞれの事情に合わせた活動を丹念に追っています。

 東インド会社の行動は、例えて言えば、ほとんど元手をかけずに人の家から持ち出したお金を使って、本来足を踏み入れることのできないはずの店の一流品を買い、それを自分の家に持ち帰って利用したり、売却して利益を得たりしていたということである。このような行動を二〇〇年も続ければ、北西ヨーロッパが全体として豊かになり、世界をリードする経済力を身につけるのは当然だろう。アメリカの銀とアジアの物産が「近代ヨーロッパ」の経済的基盤を生み出したのである。(p.354-355)

これが経済活動の範疇にとどまっていた17・18世紀は、ヨーロッパ・アジア双方にとってまだ平和な時代だった。本書はこの時代の実相を描くことを目的としたものですが、一方で領土的野心と国民国家の理論がアジアに持ち込まれた19世紀には様相が一変するわけです。そこのところへの言及が少ないので少々「欧米礼賛」の傾向ありととられかねないな、と要らぬお節介の一言を。