有川浩『阪急電車』

阪急電車

阪急電車

宝塚〜西宮北口駅を走る阪急今津線。その今津線に乗り合わせた人々のエピソードを駅ごとに繋ぎ合わせた小説。
一つ一つのエピソードは独立しているようでいて微妙に絡み合っている。電車という空間ならではの演出で、なかなか上手いなと思いました。ものわかりの良い、人間として出来すぎの人ばかりが出てくるというのがちょっと気にはなりますが、登場人物はそれぞれに魅力的です。
作品とは全く関係のない話ですが、この作品に出てくる「門戸厄神」というところは3歳半まで住んでいた場所です。もちろん当時の記憶はほとんどなく、残っているものといえばアパートの庭で転倒した時にできた後頭部の傷痕ぐらい。しかも分娩は母の実家に近かった甲子園で行われており、甲子園出身と名乗った方が違和感はありません。それでも、名前を聞くだけで何となく懐かしさがこみ上げてきますね。
もう一つ作品とは関係のない話。作中でも書かれていますが、西宮北口駅は、東西に走る阪急神戸線と、南北に走る今津線が交差するターミナル駅で、実は今津線西宮北口で終わりではなくて、そこから南に「阪神国道」「今津」と二つの駅が続きます。「阪神国道」も、甲子園に引っ越してからも厄神さんにお参りに行ったり西宮球場に行く時に頻繁に使っている、むしろ「門戸厄神」よりも馴染みのある駅です。近くのアサヒビールの工場に社会見学に行ったりもしました。
で、今はこの二つの駅に行くにはいったん西北で降りてから今津行きに乗り換える必要がありますが、昔は何と線路が十文字に交差していたんですよ。北口の駅に入ると電車がガッタンガッタン言ってホームに入っていくのが楽しかったという記憶があります。だから、この本にも「阪神国道」が出てくるのかなと、ちょっと期待していたのですが、出てこず。個人的にはそこが残念でした。ま、この二つは阪神沿線に近いし、ちょっと街の雰囲気が違うかもなぁ。
最後に一つ、非常に残念な点が。折り返し後の「西宮北口駅」で、おばさんのマナー違反に腹を立てているミサ自身が携帯の電源を切らずにマナーモードにしているというのは拙い。これも立派なマナー違反です。