北村稔『中国は社会主義で幸せになったのか』

中国は社会主義で幸せになったのか (PHP新書)

中国は社会主義で幸せになったのか (PHP新書)

だいたい清末から文革終了あたりまで(改革開放以降にも言及はあるがほんの少しだけ。実はこの点が本書の問題だったりする)を扱った中国近現代史概説といったところ。共産党による一党独裁と伝統中国の王朝支配に類似性がある、というか本質的にはなにも変わっていないという論点はとりわけ目新しいものでもなく、何か新知見を得られたということはなし。良くまとまってはいます。
表題と内容が若干ズレているという印象を受けました。終章で筆者は「中国は、共産党社会主義を必ずしも必要としなかったのではないか」という「感慨」(この表現もなんだかなぁ、って感じがしますが)に行き着いているのですが、途中で述べられているのは「共産党による支配と伝統的封建体制がいかに類似しているか」ということと、まぁ自明のことですが「毛沢東を中心とする権力闘争の醜さ」。この点については私も完全に同意するので文句はないのですが、それなら「中国は共産党独裁で幸せになったのか」と問うべきではないでしょうか。
現行の共産党による一党独裁体制を是認するわけでは決してありませんが、やはり今の段階で別の選択肢があるかといえば私には思いつきません。急激に民主化したところで待っているのは今以上のカオス。「政治はお上のもの」と思っている人民が民主政治の担い手になれるとは思えません。その意味で筆者の言う通り「伝統」は保たれていると思いますし、その「伝統」の中であの国はやって行かざるを得ない気がします、たとえ不幸せでも。


この本はきちんとした史料・資料に基づいて、現代中国を批判的に見るという立場から書かれています。一方で、世に蔓延る「反中国モノ」をあまり読む気がしないのは、余計なお節介だろうと思ってしまうのと、「これから」に対する展望が全くないので生産的な議論に発展しない、というのが理由です。後者の点に関してはこの本も残念ながら改革開放以降に対する具体的な記述を欠いており、現代中国の問題に直結してこない。「マルクス主義への未練」を抱えつつ「「社会主義革命」に引導を渡そう」とする(「あとがき」より)筆者の意図を考えると仕方のないことかも知れませんが。


あと、終章でたらればで色々言っちゃっていますがこりゃマズイ。国民党政権ならもっと上手くいったとか、ましてや袁世凱中華民国政府や洋務運動に舵を切った清朝でも現在のような社会体制を出現させていたなんて言えるわけはないでしょう、「伝統」が息づいているのなら。国民党に関しては本文でも同じようなこと言っていましたが、そもそも大陸と台湾では条件が違いすぎる。ナンセンス。