それでもパリは燃えなかった−加古隆『NHKスペシャル「映像の世紀」オリジナルサウンドトラック』『パリは燃えているか−NHKスペシャル「映像の世紀」オリジナルサウンドトラック完全版』

NHKスペシャル映像の世紀サウンドトラック盤。メインテーマの名称の由来は、1944年8月25日、ドイツ軍のパリ撤退の報を受けてアドルフ・ヒトラーが言ったとされる言葉。ヒトラーは、「もしパリを連合軍に奪回される際には市の中枢を徹底的に破壊しろ」という命令を下していたものの、結局その命令が実行に移されることはありませんでした。その辺の経緯についてはこちらの作品(上)(下)を。
さて、サントラです。昨年購入して以来、私のパソコンに入っているアルバムではもっとも再生回数が多いこの二枚。なぜ今になって取り上げるかというと、あるブログを読んで、このアルバムに関してちょっと考えるところがあったからです。ま、ほとんど独り言です。


Nスペ『映像の世紀』は、リュミエール兄弟によってシネマトグラフが世に送り出されて以来積み重ねられてきた映像資料をもとに、主に20世紀の人類の歩みを描いたシリーズです。そこに描写される歩みには負の側面が多く、たま〜にこのシリーズのビデオを手に取ると、視聴後には必ず暗〜い気分になって、「ああ見なけりゃよかった」と後悔してしまうわけです。
ところがさっきも書いたように、番組のサウンドトラックは最も頻繁に聴いている音楽の一つとなっている。番組からは悲惨なイメージしか得なかったのに、なぜサントラは繰り返し聴いてしまうのか、しかもそこから得られるイメージは必ずしも負の側面だけでないのはなぜか。


作曲者の加古隆氏が書いた、一枚目のライナーノートにはこう記されています。

100年間という時の流れを背景に、世界中で繰り広げられる人々の生活や歴史上の事件を映像が語ってゆくこの作品に於いて、音楽は一体何処にそのよりどころを求めるべきか?それが作曲にあたっての一番の問題でした。そして自分なりに見つけた答えは、「歴史上の事件にのみ照射するのではなく、あくまでも、その歴史を動かしてきた“人間”を中心として考えよう」というものでした。
(中略)
良いも悪いも含めて歴史を創ってきたのは“人間”です。メインテーマは、その人間の存在に想いを馳せながら、100年という壮大な歴史のロマンを謳いたいと思いました。

「良いも悪いも」。“人間”を中心に据えて作曲されたこれらの楽曲から受けるのが負のイメージだけでないのは、加古氏の“人間”に対するイメージが負の側面だけで構成されているわけではないからかな、と思うわけです。映像と楽曲のマッチングが非常に上手くいっているその一方で、楽曲だけを取り出してみると、とりわけメインテーマにはNスペ本体のトーンとはかなり懸絶した「前向きさ」を感じる。そして、僕がこのアルバムを「何となく自分を奮い立たせたい」時にかけているのもそのせいかもな、と思います。さてこれから一仕事するか、という時に選ぶというのが多いですね。まぁ頻繁にかかっているということは「いちいちそうしないと奮い立たない」ということなわけですが(苦笑


「確かに人間はどうしようもないけれど、それでも人間をやっていくしかねぇだろう」というのは、私の根底に横たわっている人間観なわけですが、その後半部分を激しく揺り動かしてくれる作用がこのアルバムにはある。さるブログの御仁が、同じようにこのアルバムから前向きな語りを紡ぎ出したのを目にして、その作用にあらためて気がついた、というわけですよ。


それでも人間はパリを燃やさなかった。だから、人間もまだまだ捨てたモンじゃないんじゃないでしょうか。もっとも、それは60年以上前の話ですが…


で、「オレが最後に『奮い立とう』としたのはいつだ?」と再生記録を見てみると…何とここ二週間かかっていない!「これから奮い立とう」という所のその手前までも行っていないということか。ヲイヲイ大丈夫かオレ(苦笑