重松清『卒業』

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)

「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。筆者の新たなる原点。(裏表紙より)

「肉親の死」を迎える、あるいはかつて余儀ない形でそれを突きつけられた者と、その家族の物語四編からなる本作。作者自身が「あとがき」で書いているように、いずれの作品も、一人の死から残された者が新たな始まりのきっかけを得るという物語になっています。
自分は親兄弟を失うという経験はまだありません。だから「家族の絆」という言葉を用いるとき、そこには生きている者同士の関係という意味しか込めることが出来ません。が、この物語に現れる家族のように、死を迎えるときも、そして死を経ても、家族は家族であり続けるのだろうし、自分もそうありたいな、と思います。
主人公だけでなく、各作品の登場人物全てにきちんとした性格設定がなされており、そのことが物語に深みを持たせています。