山里亮太『天才になりたい』

天才になりたい (朝日新書)

天才になりたい (朝日新書)

僕はひたすらネタを作りまくった。ただ何がおもしろいかをあまりわかっていなかった―。
芸人になりたい。でも「天才」ではないことは、自分でよくわかっている。南海キャンディーズ山里亮太は、悩みながら、なんとかして自信をつけようとする。いわく、「張りぼての自信」。おずおずと、でも確かに、歩を進める一人の青年の姿。

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山ちゃんこと山里亮太の自伝。「人に歴史あり」とはよく言ったもので、期待していた以上の面白さでした。
お笑い芸人の苦労話というと「こんなモンしか喰えなかった」とか「こんな汚いところに住んでいた」という悲惨なエピソードばかりですが、この本にはそういった部分はほとんどなく、「いかにしてお笑い芸人になるか」を徹底的に考え抜いた過程が語られています。
彼が考えてきた内容には成功者に必要とされるそれが結構揃っていて、大まかに言うと、

  1. 退路を断って妥協できない状況に自分を追い込む
  2. 自分にできることとできないことを知る
  3. 最終的な到達点を考えて、そのために必要なことを実行する

という三点です。全部欠けています、今の自分には。タイトルの「天才になりたい」というのはそのまま読むのではなくて過去の自分の「思い上がり」を敢えて用いた、ということでしょうか。

筆者が本業の作家でないことも良い方に作用していると思います。全体の構成や文章の技巧なんて正直褒められたものではないですし、山ちゃんがいつもやっている「一ひねりしたツッコミ」的な口調が混じるあたりは人によっては読みにくいと感じるでしょう。それでも何か伝わってくるのは、余計な小細工をせずにストレートに語ってくるからかも知れません。本業の作家に書かせたら多分つまんない。
「ツッコミ口調」が後半に行くにしたがって減っていくのは「ちょっとウケをとっといた方が良いかな」と思って軽く書き始めたのがだんだん入れ込んできたからなのか、それとも過去の自分とシンクロさせる意図でわざと文体を変えているのか。後者だとするとちょっと作家っぽくなってしまってイヤだなぁ(笑

ハッキリ言って購入すること自体を「ネタ」として考えていた本書ですが、一気に読み終えました。