10.27は「活字の日」

だそうです。というわけで最近読んだ本と一言感想を。*1

サッカー監督という仕事 (新潮文庫)

サッカー監督という仕事 (新潮文庫)

自らもドイツサッカー協会公認「スペシャル・ライセンス」を持つ筆者による、監督論のみならず良いプレイヤー像・戦術にも言及した一冊。2000年刊行なので話題が古い感じも受けますが文庫化にあたって若干加筆されています。
「モチベーター」としての監督の役割にもう少し詳しい記述が欲しかったなと思います。案外トルシエには肯定的なのに驚きました*2。本筋とは関係ないことですが、「走るサッカー」とは何もオシムが持ってきたものではなくて、日本人が久しく忘れていた(あるいはその真の重要性に気付いていなかった)ものをオシムが思い出させてくれた、という形容の方が正しいな、と、本書を読んであらためて思った次第。

トルーマン・カポーティ〈上〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈上〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈下〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈下〉 (新潮文庫)

作家トルーマン・カポーティの生涯を、友人・愛人・ライバルの証言をもとに跡づけたオーラル・バイオグラフィ。
完全に順番を間違えました。これの予習に、と思って読み始めたのですが、上記の通り証言を集めたものなので、彼の生涯についての相応の予備知識があった方が面白く読めたはず。忙しいうえに風邪もひいており、映画を見るかどうかも微妙なのですが…

愛国の作法 (朝日新書)

愛国の作法 (朝日新書)

愛国心は自明のものでもなければ感性の問題でもなく、十全な議論を尽くした上で語られるべきだ」という筆者の従来の主張を平易にまとめた一冊。特に目新しいことを言っているわけではないので、彼の著作を何冊か読んでいる人には無用。『国家の品格 (新潮新書)』に感動した!という人は少し頭を冷やしてこういうものも読んでみた方がよいかと、絶対に。

日本留学経験を持つ筆者による、日中文化比較論。
文化論としてはかなり平板。動物に対する考え、自然観、辞世の句に見る倫理基軸などを例に日中の価値観の違いを論じようとしているのですが、「双方の文化の根底にあると筆者が考えている事例を拾い集めている」という感が否めません。その結果描かれた日本人像・中国人像がともに古くから語り尽くされたステレオタイプになってしまっている。例えば日本人は「自然との融合の美」を重んじると言いますが、それは一面では正しいものの、昨今の日本人からはそうした感性がずいぶん失われていることも事実です。また、「儒教に基づく道徳規範に忠実である中国人」というイメージが所詮イメージでしかないことはかの国を訪れた人間には自明のことです。そもそも「礼貌」がないから声高に「礼貌」を語らざるを得ない、というのが現在の「儒教の母国」の実像です。
つまりこの本は「伝統的価値観に基づいた日中比較」ではあっても、現在のあるいは未来の日中についてはほとんど解答らしい解答が示されていない、ということです。


ただ、日本人は「言葉で説明できない感性を基層にしている文化」(「はじめに」より)を持っているという指摘には少し思うところがありました。
イヤ、「この指摘が鋭い」とか言うのではなくて、「日本文化を学ぶ中国人もかくの如く「心」「感性」に至ってしまうのか」と思ったわけです。「ライトスタンドで気勢を上げている人々」*3もしばしば「心の問題」とか「情緒」という意味の言葉を使って「日本人の優位性」や「愛国心」を説明します。そうした人の言説に影響を受けているとは思えない筆者にしてこのように「心」「感性」に日本文化の特質を帰着させているということは、すくなくとも文化論としては一定の説得力を持っているということです、文化論としては。それだけに文化論を武器にしてじわじわと浸透しつつある「ライトスタンドの大歓声」は非常にやっかいです。

*1:という理由をつけてレビューを一気にお手軽にこなそうとしているというのは秘密です。

*2:その当然の帰結としてジーコには否定的なのですが、こちらは納得。

*3:「右翼」席のことな>ライトスタンド