トルーマン・カポーティ/佐々田雅子[訳]『冷血』

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)

カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件。被害者は皆ロープで縛られ、至近距離から散弾銃で射殺されていた。このあまりにも惨い犯行に、著者は5年余りの歳月を費やして綿密な取材を遂行。そして犯人2名が絞首刑に処せられるまでを見届けた。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル−−。様々な物議をかもした、衝撃のノンフィクション・ノヴェル。

カンザス州西部のホルカム村で起こった一家惨殺事件を、被害者の知人、捜査関係者、そして犯人自身に対するインタビューをもとに描いた作品。4章構成で、事件前日から当日にかけての被害者・犯人双方の行動を再現した第一章、捜査と犯人の逃避行を追った第二章、ある人物の証言から犯人逮捕、事件の発生地への移送に至る第三章、取り調べ・裁判から2人への死刑執行までの第四章で構成されています。物語は単線的ではなく、事件に関係する人々それぞれに焦点が当てられ、重厚な物語になっています。
「三年を費やしてノート六千ページに及ぶ資料を収集し、さらに三年近くをかけてそれを整理」(訳者あとがき)して得られた「事実」に根ざした物語であるということがもたらす迫力。淡々とした叙述の中に秘められた様々なテーマ。本書からは多くの、今にも通じる人間社会の様相を看取することが出来るのではないでしょうか。例えば裁判では採用されなかった犯人に対する精神科医の分析から現在の猟奇的犯罪に思い至る人もいるでしょうし、犯人の残虐性と家庭環境の関係についての記述に現代の家族のあり方に関する問題意識を喚起される人もいるでしょう。
「想像」で事実であるかのような物語を作っていくフィクションと異なり、あくまで取材によって知り得た事実のみに立脚して物語を「創造」していくノンフィクションの原点にして最高到達点。